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奥誠之 ドゥーリアの舟

2024年2月10日(土)~5月15日(水)

ドゥーリアの原理は次のように記述できるだろう 。すなわち、私たちが人として生きるためにケアを必要とするのと同時に、私たちは、他の人々——ケアの仕事をする人々を含む――が生きるのに必要なケアを受け取れるような条件を提供する必要がある。
   エヴァ・フェダー・キテイ『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』p.244

 

私は小さなパネルやキャンバスを何十枚も机に置いて、同時並行で描いています。

どれも下書きをせずに描きはじめます。最初はかたちを持たない絵の具が、次第に何かしらのかたちを持つようになります。上から絵の具で塗り潰したり、布で拭ったりして、かたちが消えていくことも度々です。

私は、必要だと思う時に描いているから、毎日描くこともあれば、半年描かないこともあります。

一枚の絵の完成のために、できるだけ時間をかけることを意識しています。しばらく絵を描かない時間をつくって、描いたものや描こうとした景色を忘れることさえあります。そんなことをしているから、いつも私の机には描き途中の絵がたくさん並んでいます。

久しぶりに筆を取って描き始めるとき、それは「いつかの絵」として私の目の前に存在し始めます。埃がかぶるまで放っておいた絵を取り出したとき、それは「だれかの絵」が突然私に手渡されたような感覚を覚えます。

そんな「いつか」であり、「だれか」であるような絵を、少しずつ今に近づけ、私に近づける。他者の存在と私の存在の間にあるような絵になったら、それが絵の完成なのではないかと思います。

 

p.s.
イスラエルがパレスチナで虐殺をはじめた2023年10月以降、私はまた絵を描かなくなっています。
他者の存在が跡形もなく消されようとしている事実に耐えられず、私は(私だけでなく世界中の人々が)この虐殺を終わらせるために行動をはじめています。
自分の絵にとって必要な他者の存在は、当然私の人生そのものにも深く関わっているからです。私にはどうしても他者の存在が必要だからです。
私の絵を観てなにかを感じてくださったのなら、どうか、その感情をパレスチナで生きる人々につなげてください。想いをかたちにしてください。

 


時間はどうして戻らないの? 2021年

 

季刊誌『NANAWATA NOTE 17』に掲載した作家インタヴューは、こちらからご覧いただけます。

奥誠之 プロフィール

1992年東京都生まれ。声と絵の具、発声と筆致がイコールになるような表現を求めて絵を描いている。2022年より、“人と芸術の居場所”を考えるための展覧会・読書シリーズ「Homemaking」を企画する。主な展覧会に「Homemaking#1 回想/保存」(トタン、東京、2022年)、「小さな部屋に絵具を渡す」(room&house、東京、2021年)、「ドゥーワップに悲しみをみる」(blanClass、神奈川、2018年)など。2022年6月にエッセイ作品集『ドゥーリアの舟』(oar press)を刊行(翌年6月に第2刷)。

関連イベント

2024年3月3日(日)午後2時(開場午後1時)

トークイベント「挫折のあとにできること」

  • ゲスト
    足立元(美術史・視覚社会史研究)
  • 料金
    1500円(エクレア・飲みもの付)
    定員
    35名(終了しました)
足立元 プロフィール

1977年東京都生まれ。日本近現代の美術史・視覚社会史を研究。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業、同大学大学院美術研究科博士後期課程修了。現在、二松學舎大学文学部国文学科准教授。主な著作に『アナキズム美術史 日本の前衛芸術と社会思想』(平凡社、2023年)、『裏切られた美術 表現者たちの転向と挫折 1910-1950』(ブリュッケ、2019年)など。編著に『新しい女は瞬間である 尾竹紅吉/富本一枝著作集』(皓星社、2023年)。

 

 

         

 

奥さんと足立さんのトークの抄録は、こちらからご覧いただけます。

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東武バス01系統(川越駅東口発、本川越駅経由)「仲町」徒歩4分

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